今季最後の冬のコートは、このビスポークのチェスターで締めくくります。
キング・オブ・ザ・コートと言ってもいいチェスターフィールドコート。
気難しい名前ですが、もうすっかりマスに浸透した印象。
セットインスリーブのオーバーコートがチェスターフィールドコートなら、
ラグランスリーブはバルマカーンコートになるわけですが、口にするのが
気恥ずかしくなるほど認知度が低いことを考えると、やっぱりチェスター
フィールドコートの存在感は大きいと改めて感じます。
セットインスリーブ、フライフロント、上衿のベルベット。
チェスターフィールドコートに最も多く見られるディティールがこの3つ。
他にもノッチドカラーやセンターベント、両脇のフラップポケットなど、
チェスターフィールドコートのキャラクターを挙げればキリがないですが、
この一着は全部備えています。まさに王道のデザイン。
ベルベットの折返しになった本切羽のカフス。
ここだけが独自といえば独自のキャラクターで、
かしこまったディティールの中での唯一の遊び。
個人の趣向が反映された、控えめだけど他には絶対ない違い。
人間味が感じられるこんなデザインこそビスポークの魅力です。
正直、けっっっこう着込まれてます。
元々傷みやすいとはいえ、シルクのライニングには擦れやキズが、
ベルベットの袖口にも擦り切れが見られます。
確かにセレモニーや仕事における重要な場面にはふさわしくないので、
そんな機会に着ようと思ってるならやめた方がいいです。
でも、これをオーダーしたような、アッパーとかアッパーミドルな人たちが
これくらいのキズや擦れを気にするかといえば、必ずしもそうではない。
ツイードとかカシミアとかを、直しながらずっと長く着るような、愛着とか
モノの良さ、経年の雰囲気を大切にする彼らのエッセンスを見ることができる、
チェスターフィールドコートとしてだけでなく、ヴィンテージのコートとしても、
またイギリスのコートとしてもお手本のような一着だと思います。
大人のドレスコードとして清潔感を何より最優先する人も多いと思いますが、
着込まれてもなお良い服を大切にすることは恥ずかしいことではないですし、
それを恥ずかしいと感じさせる空気、文化はなんとなく寂しい気がします。
まったくヴィンテージに縁のない人でも、良いヴィンテージを着ている人に
「それいいわね!」って気軽に声をかけて共感し合えるイギリスの文化は、
このコート同様にお手本とする部分が多くあるように思います。
最近イギリスのマーケットにも中国人や韓国人がものすごく増えていて、
彼らが古いものを愛でる姿を見ていて、日本ってある程度まで進んでから
しばらく止まってしまっているなあという気がしたので。気のせいかな。では。