今日はミリタリーウェアです。
流行り廃りがないのはミリタリーウェアの大きな魅力だと思いますし、
興味ある人、ない人に関わらず広く需要がある理由かもしれません。
僕は着用できるもの、衣類にしかほとんど興味がないのでそれ以外に
ついては除外して話をしますが、上述でいう「興味がある人」には、
ミリタリーウェアにしかない独特の造形や、無意味なデザインはただの
一つもない、言い換えれば作りがいくら不可解でも絶対に理由がある、
必ずその問いには答えが存在することに探究心を掻き立てられる人も
多いと思います。あくまで魅力の一つとしてです。
もう一歩踏み込むと、何十万もかけて当時のウェア一式を揃えたり、
それを着てイベントやフェアで当時の活動や戦闘を再現したりと、
ライフワークとも呼べるレベルにまで達するみたいですが、ここでは
一つ前の段階において、アイテムの話につなげたいと思います。
見たことのないミリタリーウェアが出てきたとき、これはどのような
用途で作られたのか、このパーツは何のためなのか、探究心を
刺激される類の人たちはこういった疑問を必ず持つはずです。
それでもそのアイテムに表記が全く、或いはほとんどない、資料も
手に入らないとなると、どんどんその謎に引き込まれていく。
その造形が美しかったり、服としての魅力が高ければ尚更です。
これらの2枚はその条件は満たしつつ、その素性についての答えは
手に入れた人に探求を委ねる、そんな2枚です。
1枚目はイギリスのコットンリネンセーラートラウザーズです。
30's、下手するともっと古いかもしれない一本。
ミリタリーウェアに強い方から手に入れたものですが、その方いわく
これはRoyal Navy(イギリス海軍)のセーラーウェアではないかと。
そんなわけないだろ、って言う方もいるかもしれません。
単純に見慣れないものであり、Royal Navyと黒の組み合わせに
違和感があるのも何となくわかります。
ただ、ご存じの方もいるかと思いますが、
Royal Navyのセーラーユニフォームには、一般的な白と同時に
黒のセーラートップ&ボトムも存在するので(ウールが多いですが)、
ちゃんと後年のアイテムにリンクしているわけです。
またセーラーは基本的に軍に所属しているため、そのユニフォームも
支給されるので、民間用に販売されていたことも考えにくいです。
漁師とか、ただの船乗りのための服ではないわけですし。
洗濯するために外しましたが、デッドストックの状態で見つかり(本当です)、
この紙製のタグがバックポケットに縫い付けられていました。
素材からアイテムの名称、サイズの詳細、マニュファクチャー、年号、
更にはブロードアローまで入っている後年のタグと比較するのは野暮です。
そういったタグが付くような時代のものではありません。
バックのアイレットは古いセーラーウェアにだけみられるディティールです。
3つしかないフロントボタン、2種類の異なる裏地、入口の大きさが左右で違う
フロントポケット、タバコ位しか入らないバックポケット、適当なベルトループなど、
今では考えられない作りの数々。
素性は分からなくても、これがいかに古いものであるかくらいは想像できますね。
ヒントが限りなく少なく、謎の多いアイテム。
Royal Navyである可能性は高いと思いますが、真相は正直分かりません。
ただ、最初に書いたように、探究心を掻き立てられるものであることは確かです。
ここから先はこれを手に入れる方に委ねたいと思います。
Leather and Lace web store
続いてはPOW(Prisoner of War)、いわゆる戦争捕虜のユニフォームトップ。
勘違いされがちですが、ここでのプリズナーは犯罪で捕まった囚人ではありません。
戦争で傷ついた兵士が着たホスピタルジャケット、とかいう推測もおそらく☓。
重傷を負ったり、死の危機に瀕した人間にポケットはいらないはずです。
最も信憑性があるのは、戦争でイギリスに出兵し、戦闘に敗れ、生き残った
”他国”の兵士たちが捕虜になって着せられていたもの、という見解です。
この形どっかで見たことあるような・・・、という方もいるかもしれません。
ボックス型のシルエット、4つのメタルボタン、左胸のポケットや衿の形状。
web storeに掲載されているこちらとほぼ同じデザインです。
ただ、こちらが無地のウールであるのに対し、今回の1枚は綿のストライプ。
真鍮製のボタンに対し、シルバーのアルミボタン、という大きな違いが。
同じジャケットなのに、色や素材をわざわざ変える理由は何なのか?
それはどの捕虜がどこの国の捕虜なのか区別するためだと思われます。
幸か不幸か敵国において生き残ってしまった各国の兵士達を、イギリス政府が
公然と処刑するわけはなく(あくまで捕虜、人質)、だからといって彼らのために
わざわざ監獄を作っていたらどれだけ無駄な予算がかかるんだという話。
そこで彼らは戦後の貴重な労働力としてイギリス各地の農場などに送られました。
捕虜ならみんな同じ、とはいかず、戦後の処遇も敗戦国によって異なったはずで、
それは少なからず捕虜の扱いにも影響する。だから区別する必要があったんです。
送還先の気候も北と南では全然違うわけで、それに応じて素材も変える必要が
あったのかもしれません。ちなみに当時を知る人の話だと、地元にドイツ人捕虜と
イタリア人捕虜が一緒に働いていた農場も存在したそうです。
素材は安い綿。おそらくインド綿です。そして上の丸いスタンプはインドの、
軍需品として承認されたというスタンプなので、生産国もインドになります。
裏がうっすら起毛していて肌触りが良いのでパジャマだろうと思いましたが
働くときも寝るときも、昼夜同じものを着せられていた気もします。
いかにもプリズナーを思わせる太いストライプ。
でもこれは、一目で捕虜と分かるように意図されたデザイン、という理由
だけではなく、無数の捕虜たちをカテゴリー分けする意味もあったことは
あまり知られていない事実かもしれませんね。
Leather and Lace web store
ちなみに、このストライプがどの国の捕虜のものかまでは分かりませんでしたが、
その代わり、web storeに掲載されているこちらの正体が判明しました。
同じPOWですが、このタイプは実はイタリア人捕虜のユニフォームです。
着ている人、発見笑。
80年代に放送されたイタリア人捕虜に関するドキュメンタリー番組でこれをみた、
という証言があるので、おそらくそれは間違いなさそうです。
また、バックのダイヤはムッソリーニへの支持、忠誠を示すもので、それゆえ
政治的な造反者がこれを着せられていた、というエピソードも。
確かにシルエットが細く、サイズも小さいものばかりなので、比較的小柄だった
イタリア人たちが着用していたことも納得がいきます。
2人ともタックインしているので、ジャケットというよりはシャツに近いですね。
モノクロなのでよくわかりませんが、今回の英国旅で、紺地に白のダイヤが
お尻に入ったパンツを確認したので、右はその色の組み合わせかも。
これもまた探究心をそそられる写真です。
まるでミリタリー専門のお店みたいな話になってしまいましたが、
単純に見た目がいい、服としてカッコいい、それだけではなく
背景やストーリーを知ることで更に興味が深まったり、愛着が湧いたりするのも
ミリタリーウェアならではの魅力だと思い、それに特化した内容にしました。
次はもっと軽いやつにします笑。
疲れましたので、この辺で失礼します。