2枚の荷札が付いた鞄。
これはイギリスに住むある女性が、1950-60年代に使っていた鞄です。
女性の名はMiss H. M. Aikenhead。
荷札はこの人の滞在先が、当時イギリス保護領だったアフリカ・ニヤサランドの首都、
ゾンバにあったガバメントハウス(知事・長官の住宅)であることを示しています。
もう一枚の荷札からは、彼女が1964年(12月?)、モザンビークの港・ベイラから、
この鞄を手荷物としてブレイマー号に乗り、ロンドンに向かったことがわかります。
UNION CASTLEは当時ヨーロッパ-アフリカ間をつないでいたイギリスの海運会社。
当時は旅客機がまだ就航しておらず、船が主な交通手段でした。
1964年はニヤサランドが、新国家・マラウイとして独立した年。
つまり彼女は、保護領を治めていた知事や要人の家族として現地に在住し、
まさにその独立元年に、もうイギリス領ではなくなる(なくなった)土地を後にして、
故郷のイギリスに帰ったんだと思います。
コーヒー豆の袋を再利用したような、お世辞にも高級とは言えない鞄。
お金持ちが休暇でのんびりアフリカを訪れたのならもうちょっとファンシーな
鞄だったのかもしれませんが、一人の女性が仕事で駐在する夫(或いは父)のもとで
暮らすために訪れているので、使い慣れた鞄を持っていったのかもしれません。
1999年に香港がイギリスから中国に返還された時、大量のイギリス人が
祖国へ帰ったように、この1964年にも多くの人がアフリカを後にしました。
道路は整備されておらず、町の治安も決して良くはなかったでしょうし、
独立へと向かう激動の渦中で怖い体験もしたかもしれません。
この一つ一つの汚れやシミは、アフリカで過ごした彼女の記憶です。
今週の一着。
ロンドン・ノッティングヒル発のブランド、Preen。
名前は「鳥が毛づくろいする、着飾る」という意味。
タグには鳥の羽根がデザインされています。
これは初期のコレクションから。
おそらくlate 1990'sのものです。
結構作り込んだ服が多いですが、これはポケットの
デザインだけにフォーカスしています。
レディースのブランドですが、細身の方なら
男性でも着られると思います。
それではまた。