一着のレザージャケットのポケットに入っていたレシート。
買った日、月、年がボールペンで記されています。
買ったもの、お店の名前、住所、値段まで書いてある。
1966年8月13日に"leather jacket"を購入したこと、
FOSTER BROTHERS CLOTHING(当時あったイギリスの
メンズウェアチェーン)のフランチャイズショップに売っていたこと、
その店がロンドンの中心から南に外れた町、SIDCUPにあったこと、
当時の£41.96はすごく高級ではないけど、決して安くはないこと、
買ったその場で着て、そのまま店を出て行ったこと・・・
何を思ってこのジャケットを買ったんだろう。
どれくらいの時間をかけて悩んだんだろう。
その先に何を見てこの服を見ていたんだろう。
£42はその人にとってどれくらいの金額だったんだろう。
その人は買ったあと店を出て、どこに出かけたんだろう。
傍(はた)から見たら何でもないことかもしれないけれど、
服を買うって、着る楽しみとか、スタイルとかだけじゃなく、
予算とか、他にやりたいこととか、色んなことを考えるから、
当人にとってはけっこう特別なことだと思うんですよね。
買った日を振り返ってみたら、その時の自分が甦ってきて、
懐かしくなったり、温かい気持ちになることないですか?
それって、その時の自分がそれだけ真剣になって考えた、
服を買う行為に正面から向き合った特別な時間だったって
ことなんじゃないかなと思うんです。
たとえレシート一枚でも、それに書いてある一つ一つの
文字や数字で、その人の特別な瞬間に立ち会うことができる。
ジャケットも特別だけど、その時間の価値もまた特別。