今まで紹介してきたイタリアのジャケットは、
どれも色の美しさや身体にフィットするシルエットなど
イタリアらしさ、色気のあるものばかりでしたが、
今回の2着のスーツはちょっと毛色が違います。
いずれも1960's。
変わってはいるものの地味な印象の色で、
特に身体にフィットするようなシルエットでもなく、
分かりやすいイタリアらしさがない。
これはこの2着が、いつも紹介しているような
特定の人のためのサルト物やデザイナーズではなく、
誰でも着られる服としてデザインされているからです。
confezione、confezioniは製造、製品といった意味ですが
要は既製服ということです。
更に踏み込むと、これはファッションクローズですらなく、
仕事でも着るし、そのままオフを過ごしても何の違和感もない、
言うなら一般大衆のユーティリティクローズではないかと。
そもそもイタリアではスーツを普段から着る人は多いですし、
今よりもスーツが日常着に近い時代だったので、
それほど裕福ともいえない時代に、服にかけるお金もあまりない人が
同じスーツをいつも着ることは当たり前だったはずです。
lana / terial は英語でwool / teryleneのこと。
とりあえず高級な生地ではないですね笑。
モスグレーの方に至ってはメーカーの名前すらありません。
それでも仕立てや生地は全てイタリアのものなので、
いくら無名とはいっても他の国とはベースが違います。
サイズさえ合えば、どこに着ていっても最低限恥ずかしくない
レベルにあることは確かです。
ジャケットは3ボタン、ラペルは細く小ぶりで、肩も割とナチュラル、
パンツはややテーパードと、着やすい条件は揃っています。
この辺は1960'sという時代のおかげもあるかもしれません。
一見保守的なデザインですが、じゃあ今これが保守的かというとそうではない。
時代や流行に対して保守なので、時代が変われば立ち位置も変わります。
例えば古いワークウェアが今になって面白く見えるのと同じです。
ほとんど実用性だけを考えて作られたスーツ。
意味合いはミリタリー・ワークウェアに限りなく近いです。
ただそのシーンが、戦場か、工場か、日常かで違うだけ。
まあミリタリーやワークよりずっと馴染みは薄いですが笑。
50年前のイタリアのシティズンクローズ。
イタリアの服からファッションの要素を削ったら何も残らなそうですが、
その矛盾こそがこのイタリア服の面白さです。
スタイルも後ほど載せます。ではまた。