ヴィンテージインディゴの火付け役はフランス物ですが、
意識的にも、絶対的にも特別なものはこちらだと思います。
1920-30年代頃のイギリス、LNERのジャケット。
インディゴ染めの生地を使った、鉄道員の制服です。
LNERはLondon and North Eastern Railwayの略で、
ロンドンからヨーク、ニューカッスルを経てスコットランドの
エディンバラやアバディーンをつなぐ鉄道会社。
ドライバーズジャケットと表記しましたが、
こっちは裏方とかエンジン系、エンジニア用だと思います。
鉄道系のワークウェアは通常ブルードリル(インディゴではない
普通のネイビー)が使われます。
1920年代と40年代のブルードリルは確認済みなので、
もしかするとそれより古いかもしれません。
もし同年代だとしたら、なぜ?ってくらいかなりのイレギュラー。
ただ古いものである確証は、インディゴか否かの曖昧な基準ではなく、
以下のいくつかのポイントで、よりはっきりと判断ができます。
まずはボタン。
デコラティヴなメタルボタンが使われています。
イギリスのワークウェアにおいては個人的に初めて見ました。
これが後年になると、装飾のない黒ラッカーの4穴メタルボタンになり、
それから樹脂、プラスチックへと代わっていきます。
しかもフロントは5つ、両袖にも1つずつ付きます。
この総数も個人的には初見でした。
これも後年になると4つ、3つと減っていき、袖口は省略されます。
次に補強。
まず、両肘に共布で補強が施されています。
肘当てはユーティリティクローズに関していうと
決して特異なディティールではないですよね。
でもイギリスのワークウェア、少なくとも鉄道員の服で
肘当てが付くものは、個人的にはこれが初です。
これは20年代のブルードリルにも付いていませんでした。
そして、ポケットの右上角からセンターに向かって
伸びる帯状の補強布。
これはせいぜい1950'sくらいまででしょうか。
以降は省略されます。なぜ斜めなのかは不明です。
最後は袖付。
これは10年単位の細かい話ではなく、現代のワークウェアには
あまりない特徴的なポイントなので少し焦点ズレますが汗。
上2の画像をみると、袖が前寄りに反り出てカーブしています。
これは”前振り”といって、自然な腕の位置と動きやすさを考えた
テーラーウェアや一部の高級シャツに見られる作りです。
手間がかかるため、ワークウェアには普通採用されません。
肩の画像をみれば、袖が後から付けられ、またてっぺんの位置
(肩縫い目と袖の重なる部分)が、後ろにあることが分かります。
これにより袖が前に振られ、カーブが加わります。
平面な袖付のものとの比較です。
Tシャツとか普通のシャツはほとんど下ですね。
ご覧の通りその前振りと回転のせいで、
地面に置いてもきれいにペタンと落ち着きません。
でもこれを見て、カタチ悪っ、と思うのは早合点です。
人間の身体は平らではありません。
対象が平面ではなく立体になると、これが身体に馴染み、
自然で快適な動きを生むわけです。
そしてインディゴの話に戻ります。
いくつか”個人的に初”が続きましたが、
イギリスの古いインディゴを手に入れたのも
しつこいようですが個人的には初、です笑。
なぜフレンチであれほど人気の高いインディゴが
イギリス海峡を渡った途端になくなってしまうのか。
それは分かりません笑。
色々このジャケットを紐解いてきましたが、それだけは謎。
でも、分からない方が人は惹かれやすいものです。
解明や想像は着る人にお任せします。
イギリスらしいワークウェアが良ければ、
一般的なブルードリルをおすすめします。
インディゴを着る文化が昔からない国なので、
これは全くイギリスらしい服ではありません。
でも、だからこそフレンチインディゴよりもずっと特別で、
ドクターマーチンを履くよりもずっとパンク。
鉄道系だけにこれこそスチームパンク。ナンチテ。