イタリアで一番気合いが入る時は、
朝、駅のホームに降りた時と、
ブレザーを選んでいる時です。
構内の人いきれに身を投じる時と、
ブレザーを着て鏡の前に立った時の、
カアッと熱くなる感覚は似ています。
イタリアのメンズファッションは、他のどの国より
スーツやジャケットスタイルに特化しています。
更にそれがより色気を意識したスタイルであること。
色気って日本じゃあんまり重視されないですよね。
ユルいスタイルが好まれてる最近は尚更ですし、
ヴィンテージクローズは相変わらず実用服が強い。
どこの国の服であってもその傾向は変わりません。
別に奇抜な格好をススメてるわけじゃないです。
でもイタリア服はカッコつけてこそらしさが出るんです。
自分がカッコ良くなった気分は錯覚ではなく、
表情に、姿勢に、スタイルに表れます。
初めてスーツを着た時のような心の高ぶり、
ネクタイをした時のような引き締まる感覚を
イタリアのジャケットを着てもう一度。
まずは紺ジャケ。1960'sのものです。
ミラノの南西にある町、STROPPIANAのサルトリアから。
紺ジャケ=ベーシックと思いきや、こちらはビスポーク。
地味そうに見えますが、他の紺ジャケとは一味違います。
胸板厚めのウエストくびれ、なシルエット。
このジャケットでいう「色気」はここにあります。
でも、これだけでは終わりません。
ポケットや裾のカッティング。丸い。かわいい。
これはさっきの色気を和らげるような「抜き」ですね。
カッコいい、かわいいのバランスをうまく取っています。
細くなく、太すぎないラペル。
脱いだ時にのぞく裏地の、ハッとする鮮やかさ。
時代の特徴があまり見えてこないのは
それ以上に個人の好みが反映されているから。
ただの紺ジャケで終わらない、特別感のある一着です。
続いてこちらはスカイブルーの一着。
late 1970'sのものでしょうか。
さっきのが北イタリアなら、こちらは色と素材に南イタリアの香り。
ビジネス的な堅さは全くなく、遊びのある陽気で軽いノリです。
ゴージラインの低さを見ても、クラシックな路線ではないことが
すぐわかります。ボタンもスカイブルー!遊びも手抜きなし。
そして何よりの特徴は袖丈と着丈。
サイズ表記は48(一般的なM位)ですが、
袖丈が60cm以下、着丈も70cmありません。
常識的な見方をしたら、これはちょっと短いです。
ビジネススーツを選ぶ目線で見たら、です。
今季のGUCCIのルックから。袖丈に注目です。
常識的?に見たら明らかに短いですが、
袖丈が短いことで軽さが出て、スッキリした印象です。
柄のスーツでも重たく見えません。
ここまで短くとったGUCCIの狙いはわかりませんが、
少なくとも、遊びで着る服に、仕事で着る服の常識を
当てはめる必要は一切ないことだけは分かりますよね。
あくまで好みの問題であって、良い悪いの話ではないけれど、
こういう見方・着方もアリなんだって知っておくだけでも
服を着る楽しみの幅が変わってきます。
昔なら指さされて笑われた、くるぶし丈で履くパンツも、
今じゃ誰もつっこまなくなりましたよね。それとおんなじです。
これも仕事かオフかでいえば明らかにオフの服。
短さを”寸足らず”ではなく、”遊び”として見れたら
もっと楽しく着られるはずです。