「ナポリはニューヨークみたいな街だ」
ナポリで知り合ったサプライヤーに半ば強引に誘われ、
彼のウェアハウスまで連れて行ってもらうその車中で
ナポリはミラノやローマとかと全然違うねと聞いたとき、
彼はナポリのことをそう話していました。
雑多で、ゴミゴミしていて、人種も多く、街は喧騒と
貧しさに包まれ、人々はみんなギラギラしている。
僕の頭の中にあるイタリアからはかけ離れていて、
確かにニューヨークってイメージの方が近い気がした。
その時ふと、予定にあってまだ訪れていない街、
ボローニャってどんなとこなんだろうかと、彼に
「ボローニャはどんな感じ?ナポリに似てる?」
と聞いてみると、
「全然違うよ笑。ボローニャはどちらかというと
フィレンツェに似てるね。tranquilloだ」
tranquillo。
辞書には「平穏な、穏やかな、落ち着いた」とあります。
ナポリでは常に耳に、頭の中に鳴りつづけていた
車やバイクのエンジン音や人がガヤガヤ騒ぐ声。
そんな音や声が、ボローニャでは、少し中心から
離れるとスッと消える。足音が聞こえるような静けさ。
tranquilloの意味を身体で覚えた感じがしました。
ヴィンテージクローズに触れるにあたって、
レアリティやブランド、年代、そういった要素から
離れることは難しい。最近つくづくそう思います。
そこにいるだけで常に騒がしく、頭の中で、
身の周りで鳴り続けているナポリの喧噪のように。
フィレンツェやボローニャのような平穏がほしい。
少しでも喧騒から離れて、静かに服を楽しみたい。
今回のテーマ「tranquillo」はそう思ったことがきっかけです。
あくまで僕の世界での話なので、それがどう受け取られるかは
分かりませんが、レアリティや古さばかりが取りざたされる服、
色、デザイン、そういった通俗的なヴィンテージ観から少しでも
離れて服を楽しんでもらえたら、という願いがとどくような
ラインナップを作ってみたいと思っています。
どうぞよろしくお願いします。それでは。